自殺未遂 「ご病気女のホントの最初 2」
続きです。
最初の声から数年~10年ぐらい置きに自殺をそそのかされ続けて、私は毎回、決定的なことができず、そのたびに「自分の弱さ」を強く自覚していくようになった。
決着の時は突然訪れた。
夕飯と、保存のきく惣菜の支度をしていた夕方のこと。
これから犬の餌を用意して、1日はもうすぐおわる、今日もようやく終わるとほっと緩んだ瞬間だった。
妙なことなので、健康な人には「??」だと思うんだけど、あったことだけを書いてみるね。
私の症状には、風景が二重写しに(現実&違う何処か。それぞれ別の景色だ)になる、というのがある。
私は気付いたら、キッチンなのにカジノに立っていた。
いつもより現実じゃない方の景色の画像は濃くて焦る。
周りは着飾った人たちで、私だけが部屋着に寝癖で恥ずかしくて逃げたいのに足が動かない。
人並みが割れて、その向こうにルーレット台があった。
赤と黒と数字に賭ける人たち。
私はそこに進まされる。
賭けている人たちの顔は茫洋として見えない。
一人、金の結婚指輪をした中年男の指だけが印象に残った。
例の声が「今だ、いまやれ」
不遜に言い放つ。
「え、なんで、いま?」
私は口に出しながら、現実の景色のなかで死ぬ準備を始めた。
あれが「今だ」というなら今なのだ。
↓ここからは具体的な内容になっています。
不安定な方にはおすすめできません。
ドアノブにかけるロープは犬用のロングリードがある。
成功して粗相した場合に備えて、ペットシーツを半畳分しっかりテープで貼って敷き詰めた。
床じゃなくて、ホントは布団で死にたかったから、せめてとペットシーツの脇に掛ふとんを置く。
それから、妹に電話した。
「今まで、親の暴力や無関心から庇ってやれない弱い姉でごめんね、許してほしいとは思ってないよ」
というようなことを言ったと思う。
何かあったか? と妹は心配そうだったけど、適当に話を終わらせた。
カジノではチップを出すのを終了する声がする。
私は吐き気止を飲んで、フードプロセッサーを棚からおろし、睡眠導入剤と安定剤をざっくり50錠ほど放り込み、スイッチを押した。
ルーレットとフードプロセッサーの回転が重なってぐるぐるしていた。
苦い粉を飲んで、急には効かないだろうとバカ真面目にフードプロセッサーを洗ったり、シンクを磨いて……
犬の餌を数日保つ程度床に置き。
ロープを取りに行くところで急に気を失った。
忘れていたのだ。
私はその日下痢をして、食事もしておらず、予想より薬が早く回ってしまうことを。
間抜けでしょう?
ドン、と廊下で倒れる衝撃は感じた。
どのくらい経ったのかわからないけど、救急隊が妹と入ってくる声や音が聞こえた。
「失敗した……」
と自分の声が絞り出したけど、あの声の最期の声だったのかと思う。
また私は気を失った。
救急病院で、胃洗浄の必要はなかったようだ。
もうすっかり吸収していたのだろう。
点滴して、タクシーで家に帰った。
妹に迷惑をかけるダメな姉。
謝ると「生きていてほしい」と妹は一言も責めない。
薬の影響でフラフラしていたものの、思考力は戻っていた。
「もう、こんなことはしない」
と答えた。
決着が着いたという、確信があった。
死にはしなかったけれど、私は本気でやったし、あの声は何も責めない。
終わったんだと、ようやく思った。
ただ、あの声が完全に消えたかというと、どうかはわからない、私にちょっかいを出すのを止めただけなのかもしれない。
ばかみたいな大騒ぎで、色んな人に迷惑をかけた。
うまくいけばよかったのか、失敗してよかったのか、正直よくわからない。
今は酷い入院体験の疲れが残っていて、休み休み家のことをして1日終わってしまう。
ただそれだけで終わることを、「それもアリ」と思えるのは(健康で働いている人には批判を受けるだろうけれど)よかったのかもしれない。
絶縁していた母が、暇があれば泊まってくれることもありがたい。
私は父と絶縁したんだけど、母はいつも板挟みだから、と一緒に別れて二年以上。
「お父さんには何も言わせないし、ちゃんと夫婦で決めたこと。気にすることは何もない、私は自分の意志でルキの側にいる」
と言ってくれた。
そんな言葉が母から出てくる日がくるとは思わなかったので衝撃だった。
なかなか上手に書くことはできないけれど、これが自殺未遂の顛末。